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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)15186号 判決

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.東京地方裁判所が同庁昭和五七年(リ)第七九八号事情届に墓づく配当等手続事件につき作成した昭和五七年一二月一日付別紙配当表のうち、原告に対する順位2の配当額一〇一万八二四四円を七二二万三〇七六円に、被告株式会社平和相互銀行に対する配当額一三三万五二一七円、被告株式会社埼玉銀行に対する配当額四五五万五四四六円及び被告株式会社東海銀行に対する配当額三一万四一六九円をそれぞれ○円に変更する。

2.訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.東京地方裁判所は、同庁昭和五七年(リ)第七九八号事情届に基づく配当等手続事件(以下「本件配当事件」という。)につき、同年一二月一日付で別紙配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。

2.本件配当事件は、いずれもペスト工材株式会社(以下「ベスト工材」という。)を債務者、芝浦工事株式会社(以下「芝浦工事」という。)を第三債務者とする、

(一)  東京地方裁判所昭和五七年(ル)第三〇四四号事件で、その差押申立債権者である原告が債務弁済契約公正証書に基づいて得た債権差押命令

(二)  同庁同年(ヨ)第五一四九号事件で、その仮差押申立債権者である披告株式会社平和相互銀行(以下「被告平和相互」という。)が得た債権仮差押命令

(三)  同庁同年(ヨ)第五二二四号事件で、その仮差押申立債権者である被告株式会社埼玉銀行(以下「被告埼玉銀行」という。)が得た債権仮差押命令

(四)  同庁同年(ヨ)第五三三〇号事件で、その仮差押申立債権者である披告株式会社東海銀行(以下「被告東海銀行」という。)が得た債権仮差押命令

の競合を理由として、右第三債務者である芝浦工事が、同年一〇月四日、七二三万四二八一円を供託し、その旨の事情届を提出したことによって実施されたものである。

3.そして、本件配当表は、右供託金から手続費用を控除した残金七二二万三〇七六円を原、被告らの各届出債権額に按分して配当することを前提に作成されている。

4.しかし、原告は、次のとおり、被告らに優先して右供託金から弁済を受ける権利を有するので、それを看過して作成された本件配当表には過誤がある。即ち、

(一)  原告は、昭和五七年七月九日、東京地方裁判所において破産宣告を受けた株式会社桑原商店(以下「桑原商店」という。)の破産管財人に選任されたものである。

(二)  原告が本件配当事件で届け出た債権は、桑原商店が、昭和五七年五月二一日から同年六月二一日までの間に、ベスト工材に対して別紙物件目録記載のコウハクネツト等七六点の商品(以下「本件商品」という。)を代金合計一二九六万四三〇〇円で売り渡した代金債権で、桑原商店は、本件商品につき、動産の先取特権を有していた。

(三)  これに対して、第三債務者の芝浦工事が供託した七ニ三万四二八一円は、ベスト工材が、昭和五七年五月二一日から同年六月二一日までの間に、芝浦工事に対して桑原商店から買い受けた本件商品を代金合計一二九六万四三〇〇円で売り渡した代金債権の一部であって、桑原商店の有していた先取特権の目的物たる本件商品の売却によって債務者ベスト工材が受けるべき金銭であるから、右代金債権について物上代位によって、桑原商店の右先取特権の効力が及ぶものである。

(四)  原告は、前記2の(一)の債権差押事件で、桑原商店が有していた先取特権に基づく物上代位の目的物たるベスト工材の芝浦工事に対する前記売買代金債権につき、ベスト工材が芝浦工事から支払を受げる前にこれを差し押えた。

(五)  従って、芝浦工事が供託した七二三万四二八一円は、原告が、ベスト工材に対する一般債権者(手形債権者)であるにすぎない被告らに優先して、その全額の弁済を受け得るものである。

5.そこで、原告は、昭和五七年一二月一四日の本件配当事件の配当期日において、被告らに対する本件配当表の各配当額につき原告の先取特権を主張して異議を述べた。

よって、原告は、先取特権に基づき、本件配当表を請求の趣旨記載のとおりに変更することを求める。

二、請求原因に対する被告らの認否

1.被告平和相互

請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。同4の冒頭の主張は争う。同4(二)及び(三)の事実は否認し、同(五)のうち、被告平和相互が手形債権者であることは認め、その余の主張は争う。同5の事実は認める。

2.被告埼玉銀行

請求原因1の事実は認める。同2の事実中、(一)の債権差押命令は不知、その余の事実は認める。同3の事実は認める。同4の冒頭の主張は争う。同4の口及び日の事実は不知、同面のうち、被告埼玉銀行が手形債権者であることは認めるが、その余の主張は争う。同5の事実は認める。

3.被告東海銀行

請求原因1の事実は認める。同2の事実中、口及び日の債権仮差押命令は不知、その余の事実は認める。同3の事実は認める。同4の冒頭の主張は争う。同4の(二)及び(三)の事実は不知、同(五)のうち、被告東海銀行が手形債権者であることは認めるが、その余の主張は争う。同5の事実は認める。

三、被告らの主張

1.被告平和相互

動産売買の先取特権者がその優先権を行使するには民事執行法(以下「法」という。)一九三条の規定に基づく担保権実行の手続を履践しなければならないところ、原告は、担保権実行の手続によることなく法一四三条以下の規定に基づいて強制執行の申立をしたのであるから、本件配当手続において先取特権を主張することはできないものである。

2.被告東海銀行

(一)  被告平和相互の主張と同旨。なお、たとえ原告が担保権実行の手続をとったとしても、原告とベスト工材間の債務弁済契約公正証書(甲第一号証)は法一九三条所定の「担保権を証する文番」には該当しない。

(二)  民法三〇四条に規定する「差押」は担保権の実行としての差押を意味するところ、原告は強制執行としての差押をしたものであるから、本件配当事件において優先権を主張しえない。

四、被告らの主張に対する原告の反論

1.被告らの主張は争う。

2.強制執行を申し立てた債権者がその手続内で先取特権を主張することを禁ずる規定は存しない。また、右主張を禁ずることは、他の競合する債権者が右手続に先取特権に基づいて配当要求することができるのと権衡を失することになる。

第三、証拠〈略〉

理由

一、請求原因1(本件配当表の作成)の事実は当事者間に争いがない。

同2(債権の差押及び仮差押の競合による芝浦工事の供託)の事実は、原告と被告平和相互の間では争いがない。また、原告と被告埼玉銀行との間では、同2の事実のうち、(一)の原告が得た債権差押命令を除いて争いがなく、右債権差押命令については、成立に争いのない甲第二号証の二により、これを認めることができる。次に、原告と被告東海銀行との間では、同2の事実のうち、(二)及び(三)の債権仮差押命令を除いて争いがなく、右各債権仮差押命令については、成立に争いのない甲第三号証、第六号証により、これを認めることができる。

同3(按分配当を前提とする配当表の作成)の事実は当事者問に争いがない。

二、そこで、以下、本件配当事件において、原告の主張(請求原因4)するように、第三債務者の芝浦工事が供託した七二三万四二八一円のうち、手続費用を控除した残金七ニニ万三〇七六円を全て原告に配当(交付)すべきであるか否かについて検討する。

1.原告の主張は、要するに、ベスト工材に対する本件商品の売主である桑原商店が右商品について先取特権を有していたところ、右供託金は、ベスト工材が芝浦工事に当該商品を売却して受けるべき代金の一部に外ならないから、物上代位の規定によって、桑原商店の先取特権の効力が及ぶので、桑原商店の破産管財人である原告は被告らに優先して右供託金から弁済を受けることができるというのである。

2.そこで考えるに、民法三〇四条に定める「差押」は、担保権実行としての差押のほか強制執行としての差押も含むものと解すべきところ、動産の先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、自らその物上代位の目的たる債権を強制執行によって差し押えた場合、他に競合する差押債権者等があるときは、民法三〇四条、法一四三条、一五四条及び一九三条の規定に鑑み、右強制執行の手続において、その配当要求の終期までに、担保権を証する文書を提出して先取特権の配当要求をし、優先弁済を受けることができるものと解するのが相当である。

3.右の見地に立って本件をみると、原告の本件異議が理由があるためには、本件配当事件において、第三債務者の芝浦工事が前示供託をした昭和五七年一〇月四日までに、原告が執行裁判所に先取特権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求をしたことが要件となるところ、本件ではこの事実について何らの主張立証もない。

4.そうとすれば、本件配当事件において、原告の債権を一般債権として扱い、原告と被告らの届出債権額に按分して前示供託金を配当する旨の本件配当表には何らの過誤も存しないというべきである。

三、以上の次第であれば、原告の本件請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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